ヴェネツィアを舞台にしたミステリー「カルニヴィア1禁忌」 |
1月5日。扉を開いて読み始めると、話は偶然にもその日から始まっていた。1月6日はイタリアはエピファニア(Epifania、公現祭)、つまりイエス・キリストが生まれた後、天使に知らせを聞いた東方の三博士が訪ねてくる日という祝日。同時に、民間伝承ではベファーナ(Befana)といって、魔女が子どもたちに、お菓子か炭を持ってくる日でもある。ヴェネツィアでは、魔女の格好をした漕ぎ手によるレガッタも開催される。
その前夜、1つの殺人事件が発生した。
舞台はヴェネツィア。微に入り細に入ったこの町の描写に脱帽。が、そのリアル感に加え、謎のシンボルが登場してくるあたり、どうも「ダ・ヴィンチ・コード」などのダン・ブラウン氏のミステリーを思い起こさせる。そしてああ、殺人事件を初めて担当する頭がよく向上心にあふれた美女警官と、これまた堕落しきったその他の警官とは一線を画したやり手の上司とは、あっと言う間に想像通りの展開へ。もはやミステリーといえど、お色気場面はサーヴィスとして欠かせないのだろうか、それとも、それもリアリティ演出の一部なのだろうか。
だが、その彼らの追う殺人事件の背景は、どろどろの痴話げんかでもなければ、エキセントリックなカルト集団でもなく、おぞましい人間の暗部に根ざしたものだった。
わずか数十年前、1990年代に起きたユーゴスラヴィア紛争は、地域間の民族と宗教の対立により起きた、とされる。だが、民族や宗教が異なっても、昨日までは何の問題もなく、隣人としてお互い仲良く暮らしていたのに?
その紛争は実は、第三者に煽られた、いや、仕掛けられたものだとしたら?
・・・当事者たちの悲劇、そして特に女性たちの悲劇については、これまでもぽつぽつと、映画などで語られてきてはいるが、まだまだ知られざる史実であろう。(数年前にそれをテーマにした伊映画があったように思うのだが、タイトルも監督も思い出せない・・・) 目を閉じ、耳を塞ぎたくなる、だが、 決して葬り去ってはならない事実、そういう点において、こうした小説で語られるのは悪くないと思う。もちろん、これはあくまでも歴史上のできごとをヒントにしたフィクションだと理解しつつも。
最後の最後の仕上げは、極めてアメリカ的。いや、これがデビュー作だという作者、ジョナサン・ホルトは英国人だから、アングロサクソン的というべきか。
・・・読中、読後にパリのテロ事件。なぜ人は殺し合いをやめられないのだろう?
カルニヴィア1 禁忌
ジョナサン・ホルト 奥村章子訳
早川書房
The Abomination by Jonathan Holt
10 gen 2015