カルパッチョ親子の、ヴェネツィアとイストリア@コネリアーノ |
カルパッチョといえば、日本では、イタリア風お刺身、あるいは生の牛肉の前菜、としておなじみだろう。だが、もともとは15〜16世紀に活躍した、ヴェネツィアでもっとも重要な画家の1人であることは案外知られていないかもしれない。
ではなぜ、あの料理が「カルパッチョ」と呼ばれるようになったのかは、また別の機会に譲るとして、画家のほうのカルパッチョ親子の展覧会が現在、ヴェネイツィアから60kmほど北上した町コネリアーノ(Conegliano)で開催されている。
父、ヴィットレ・カルパッチョは1460-65年ごろ、おそらくヴェネツィアで生まれた。どこで誰について絵を学んだのか、詳しいことはわかっていない。1490年から95年にかけて、スクオラ・ディ・サントルソラ(Scuola di Sant’Orsola)のために、聖オルソラ伝説を描いた。いずれも縦横数メートルに及ぶ全9枚の絵画作品は、どれ1つとっても、傑作中の傑作。伝説の聖女の物語を描きつつ、15世紀当時の人々の服装や建築を精密に反映しており、当時の生活を知る資料としても貴重。ヴェネツィアで「スクオラ(Scuola)」と呼ばれる同信組合は現存しないが、この作品は幸いなことに、ヴェネツィアのアッカデミア美術館で一度に味わうことができる。
このオルソラ伝説をはじめ、カルパッチョはとくに、歴史的場面を詳細に描いた物語絵を得意としたが、もちろん祭壇画や聖母子像などもいくつも手がけている。
というわけで、この展覧会はまず、カルパッチョの聖人像からはじまる。
ザグレブの「聖セバスティアーノ」は、(同じころ、解剖学的に正しい裸像を追求したフィレンツェのルネサンス画家たちと異なり)布を詰めた人形のようなアバウトなボディラインと、一方で細やかに描きこんだ風景が、いかにもカルパッチョらしい。
植物図鑑のようなその背景に、これまたカルパッチョの得意とした「布」の美しさが生きた「使徒聖パオロ」は、キオッジャのサン・ドメニコ教会のもの。観にいかなくてはと思いながらなかなか叶わず、ようやく観ることができた。
だが何といっても圧巻なのは、「聖ジョルジョと竜」。ヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島、同名の修道院のものだが、通常は見学ができない。
サン・マルコ大聖堂から少し東に入った、スクオラ・デッリ・スキアヴォーニという、元ダルマツィア人組合にも同じテーマの作品が残っており、そちらは入場料を払って見学できる。鎧に身を包んだ騎馬の聖人が右サイドから、対峙する竜を串刺しにしている瞬間を捉えた構図は、よく見ると地面には竜に食い尽くされたらしい人々の残骸が散らばっているところなど、2作品はとてもよく似ているが、こちらには竜から救いだされた姫の姿がない。背景が町の姿ではなく郊外にあり、奥に湖らしきものも見えていて全体にかなり明るい。竜といい、馬といい、聖人といい、まるで写真のように精密で配色も見事。
これを見られただけでも、この展覧会にきた価値があった!!!!!
そしてカルパッチョは、ヴェネツィア人で現スロベニアのコペル(イタリア語でカポディストリア)の行政長官に就任したセバスティアーノ・コンタリー二のコミンションを得て、晩年はカポディストリアをはじめとする、イストリア地方の教会の祭壇画やオルガンの蓋絵を描いた。
父ほどの天才ではなかった息子ベネデットはそれでも、父の忠実な後継者であり、職人であった。ティツィアーノにティントレット、そしてヴェロネーゼと新たな時代の申し子たちが台頭するヴェネツィアで、ベネデットの居場所はなかったのだろうか。父の死後ずいぶんと時間が経ってから、彼はカポディストリアに移住する。海の向こうにヴェネツィアを望むその町で、父と同様にきっちりと絵筆を動かすベネデットの姿が、目に浮かぶような気がした。
カルパッチョ・ヴィットレとベネデット、ヴェネツィアからイストリアへ
コネリアーノ、サルチネッリ館
6月28日まで
Carpaccio. Vittore e Benedetto da Venezia all’Istria
L’autunno magico di un maestro
Conegliano, Palazzo Sarcinelli,
7 marzo - 28 giugno 2015
http://www.mostracarpaccio.it/it/
1° magi 2015
コネリアーノというと、昔ボローニャの国立絵画館で見たチーマ=ダ=コネリアーノ作品のオンパレードを思い出します。それにしてもイタリアの地方の美術展って意欲的ですね!
数日前のオペラ@シチリアのお話もとても興味深く拝見しました。いつかイタリアの地方の劇場でオペラを聴くのが夢なんで…。テアトロ・マッシモはせめて内部見学だけでも、と思ったのですがタイムオーバーでした。今年はできればシチリア東部に行きたいと思っていますので(カザーレのモザイク…!)またfumieveさんのブログを参考にさせてくださいね。
同じ場所で何年か前に、チーマ・ダ・コネリアーノの展覧会もありましたが、やはり充実したいい展示でした。こういう地方都市はたいてい食も充実しているので、食と組み合わせて観光興しになっていることが多いようです。さすがイタリアですよね。
カザーレのモザイク、ぜひいらしてください!!!