(遅ればせながら)追悼〜フランチェスコ・ロージ監督 |
今年の1月に、イタリアの映画監督フランチェスコ・ロージ(Francesco Rosi)が亡くなったとニュースが流れたとき、正直のところ、どんな人だったか全くピンとこなかった。そういえば彼の作品は観たことがなかった。
先月、ヴェネツィアの「映画の家」で追悼特集が組まれて、週に2回ほどずつ、彼の作品が年代を追って上映されたので、そのうち数本だけだが観に行った。
1958年の「La sfida(挑戦)」は、ナポリの一人の若者が農作物の買い付けを巡って、大きな犯罪組織に立ち向かう話。いや、結論とタイトルから、ああ、そういうことだったのかと理解したが、観ている間は実は、マフィア同士の抗争、だとばかり思っていた。挑戦者である方も、さすがに当時の主役をはっているだけに、バタ臭い顔に筋骨隆々のお兄ちゃんなのだが、なにしろ彼も柄は悪いわ、手段は荒っぽいわ、少々ズルいわ・・・で。
2つめの「I magliari (織物売り)」(1959年)は、ドイツで表向きは織物販売を扱う犯罪組織の話。辞書を引くと、magliario(織物・衣料セールスマン)は、ペテン師、いかさま師という意味もあるそうで、ロージ監督はそこにヒントを得たのだろうか。
ここまで見て、うーん、彼らのドンパチだの駆け引きだのにはあまり興味がないな・・・と思っていたのだが、頑張ってもう1つ観て、目が覚めた。
それは、「Il caso Mattei(マッテイのケース)」で1971年の作品。戦後イタリアでENI(イタリア電力会社)の会長を務め、1962年に飛行機事故で亡くなったエンリコ・マッテイ氏の生涯を追ったもので、映画はその事故直後の場面から始まる。
出自や家系がいまだ重要視されるイタリアで、一技術者出身のマッテイが大戦直後の1945年、イタリア石油会社の特別代表に抜擢される。新体制への移行、すなわち民営化が至上命令の難しい局面の中で、若く、頭脳明晰なマッテイは巧みに同社の舵を取る。明快でわかりやすい、それでいて力強い演説と、反対者を抑え改革をがんがんと進める姿は、なるほど古くはジュリオ・チェーザレ(カエサル、シーザー)のようであり、現、元・某首相の姿をも彷彿とさせる。
「国民からまた贅沢な買い物と批判を浴びるだろう、でも今の自分の立場にはどうしても必要だ」と手にした専用機でイタリアからアフリカの砂漠へ、シチリアへと飛び、その帰路に運命の事故に遭う。到着予定地ミラノ近郊は当時、暴風をともなう雷雨。だが事故のほんとうの原因については、いまだ明らかになっていない。ドキュメンタリー映像を効果的にはさみながら、まるで生き急いだかのようなマッテイの人そのものを表すようにテンポよく構成された映画は、今見ても全く新鮮に楽しめる。
同年、カンヌ映画祭でグランプリ(最優秀作品賞)を受賞したというのも納得。マッテイを演じたジャン・マリア・ヴォロンテ(Gian Maria Volontè)はちなみに、wiki によると、そのときグランプリを同点を分けたエリオ・ペトリ監督の「La classe operaia va in paradiso(労働者階級は天国に入る)」でも主役を演じている。
そしてもう1つは、「Lucky Luciano(ラッキー・ルチアーノ)」(1973年)。これまた実在の人物をテーマにしたものだが、ただしこちらは、その名で知られたイタリア・マフィアの大ボス。戦前にシチリアからアメリカへ渡り、暗黒世界で這い上がって「活躍」していたが、1946年に米国追放の判決を受けてイタリアに帰国。やがてナポリを拠点に、ドラッグの闇流通の一大組織を作り上げる。
このルチアーノを演じているのがなんと、前作のマッテイを演じたヴォロンテ。もちろん人もなりも全て完全に演じ分けていて見事なのだが、実業家ー政治家とマフィアのドンと、突き詰めると実は一緒・・・だと言われているような気がした。
そのあとの作品は残念ながら今回は見られなかったが、また何かの機会に観てみたいと思う。
フランチェスコ・ロージは2012年、第69回ヴェネツィア映画祭で、栄誉金獅子賞を受賞している。「Il caso Mattei」はそのときに、修復版が上映された。
トップの写真は、ビエンナーレ公式サイトより拝借。
20 mag 2015