第72回 ヴェネツィア映画祭は、ラテン旋風で閉幕 |
一見さえない中年の男性。バスに乗り街へ出て、それなりの男の子を物色しては、札束をちらつかせ部屋に連れ込む。
・・・舞台はどうやらメキシコ。そして男性の職業は歯科技師。・・・うーむ。かの地では歯科技師というのはそんなに儲かる仕事なのだろうか。・・・いや、どうもカラクリがあるらしい。
経済格差の激しい社会の問題提起をテーマにしているのかとも思うが、そのテンポやストーリー展開からするとそうでもなく、どちらかというと不思議な恋愛関係を描いている映画らしい。
想像していた、結末Aでもなければ結末Bでもなく、えっ!?・・・といって大どんでん返しというほどでもなく。すべてにゆるゆると、いや、歯科技師の淡々としたスタイルにある意味乗せられたまま、淡々とした結びに口を半開きにしたまたエンドロールを迎えた。
うーむ。
が、まさかまさか、金獅子賞を取るとは!
ベネズエラ初はもちろん、中南米初の快挙らしい。監督はベネズエラ人だが、撮影はメキシコ、俳優はチリ人だったりと、オール中南米班といったところ。私にとっては全く未知の土地である中南米、ビガス監督によると、一つの大陸でありながら、歴史もそれぞれ異なり、実際には文化的交流が少ないという。が、映画はこうしてやすやすと国境を越える。この作品の受賞が、新しいパワーの創生になるといいと思う。(といいつつ、「パワーという言葉の似合わない、脱力感極まりない作品なのだが・・・」)
Desde allá (Da lontano)
監督 Lorenzo Vigas - Venezuela, Messico, 93’
出演 Alfredo Castro, Luis Silva
金がベネズエラ・メキシコ合作なら、銀獅子賞はアルゼンチン。
実話をもとにした、ある犯罪家族の物語だが、こちらはまさにパワー満載。家族の結束、父親の絶対的存在、暴力による不条理の正当化・・・言葉さえ異なるものの、ナポリやシチリアなど南イタリアの犯罪組織をテーマにした映画と言われればそうだまされてしまいそう。つまり、映画としては特別斬新というわけでも、大傑作というのでもないように思う。ただ、わかりやすい展開にわかりやすい音楽、映画として楽しめるのは圧倒的にこちら、だろう。実話ながら、最後は「正義が勝つ」のもまた、安心ポイントだろう。(完全にそうとも言い切れないのだが。)
El Clan
監督 Pablo Trapero - Argentina, Spagna, 108’
出演 Guillermo Francella, Peter Lanzani
今年のヴェネツィア映画祭は、金・銀を中南米が制する快挙となったが、ほかにもフランス映画が2本受賞するなど、ラテン色満載で閉幕した。ほかにも、見た作品については、追って紹介していきたいと思う。
13 settembre 2015