海を見下ろす大聖堂、アンコーナ |
マルケ州の州都アンコーナは、アドリア海に面した有数の港の1つ。この町のドォーモ(大聖堂)、聖チリアコ教会は、丘の頂上にあって、ギリシャに向かう客船や大型タンカーの出入りを見守っている。
シンプルで平面的な外壁、三角屋根の縁取りによく見ると浮き彫りの模様。丸く開いたバラ窓に、彫刻で飾られたアーチが何重にもなった正面入り口。そのアーチを支えるぽってりとした一対のライオン。
典型的なイタリアのロマネスク様式のファサードだが、中に入るとやや予想とは違った作りに、はっとすることになる。
考古学調査や文献から、もともとこの地には、町が創設された紀元前4世紀ごろよりギリシャ神殿が建てられていたことがわかっている。紀元後6世紀、おそらく地震により崩壊し、その跡地にキリスト教教会が建てられた。当初は、バジリカ型と呼ばれる縦長の建物だったが、11世紀に入り、現在の正十字型のプランに建て替えられた。縦、横の腕の長さが等しい「ギリシャ十字型」とも言われるこの形は、ギリシャ、つまり東方教会で好まれたプラン。ちなみにヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂はこのちょっと応用型になっているが、このアンコーナのドォーモは、それぞれの翼に向かって階段があり、立体的。
13世紀にアンコーナの町の守護聖人、聖チリアコに捧げられた同教会は、その後、数世紀の間に度重なる改装・改修工事が行われるが、1883年の修復作業で、中世の姿を伝えるいまの形に戻された。
船底の建造技術を応用した木造の屋根は、ヴェネツィアで今でもサント・ステファノ教会などでも見られる形で、さすが港町ならでは、というよりむしろ、ヴェネツィアの影響そのもの。一方で、4本の角柱に支えられた半円球のクーポラは、イスタンブールなどのギリシャ聖堂を彷彿とさえる。
内部の装飾は多く残っているほうではないが、必見は、正面から入ると右側の翼廊側に置かれた浅浮き彫りの障壁。制作は1189年とされ、左半分は聖人や旧約聖書の預言者らなど、人が並んでいるが、右半分はそれぞれ、木と対になる象徴的な動物たち。モチーフとしては珍しいものではないが、石の淡いピンク色を生かした、ごくごく薄い浮き彫りは、ほかであまり見たことがない。
(堂内は残念ながら撮影禁止のため、内部の写真はwiki から拝借。)
・・・雨の10月に、真夏の太陽を懐かしみつつ。
13 ottobre 2015