富士山はなぜ美しい?〜「雪月花の数学」桜井進・著 |
いわゆる西洋の「美」が、「黄金比」なるものに基づいているというのは、おそらく耳にしたことがある方も多いだろう。ところが「白銀比」と、単なる言葉のあやとはいえ字面からして妙にクールな、これが日本の美を決定づけている、と言われて目からウロコ。
簡単に言うと、名刺の形が黄金比、紙のサイズA4, A3, B5とかいってるあの形が白銀比。「らせん」を構成する黄金比が躍動感のあるバランスなら、正方形から導き出される白銀比は「静」の美、 の定義に激しくナットク。
なるほど、かなり乱暴にまとめると、西洋の美の究極が、ミロのヴィーナスであり、ミケランジェロのピエタにあるとすると、日本の美の究極は弥勒菩薩像にあり、それはまさに動の美と静の美と言える。
そして、ここイタリアで、いやおそらく欧米全般で、しばしば日本の美のシンボルとして使われる北斎の「神奈川沖浪裏」は、黄金比で説明できる、というのに、大きくうなずく。これは確かに動の美であり、日本人が見てももちろん美しいのだけど、同じ北斎でも、例えばこの本の表紙にも使われている白銀比に基づいた「凱風快晴」、これも大傑作の1つであることは間違いないけれど、彼らにとっては「神奈川沖」のほうがより、そのあっと驚くデザイン力、構図はもちろんのこと、根底のところである意味反応しやすいのだと思う。
さらにその富士山の稜線は、指数曲線にぴたり、と対応している。「黄金比」「白銀比」だけでもドキドキ、指数曲線なんて言われるとギャー!なんて数学アレルギーの方もあまりご心配なく。指数曲線とはなんなのか、についても著者はさらっとわかりやすく説明を加えている上に、ここだけの話、数式のところはざざざっと流し読みしても、だいたいのことは理解できるようになっている。つまり、自然界のさまざまな事象が「数学」で説明されること、そしてそれを人間のアタマは無意識に認識・反応しているということ。別に知らなくても、人生十分楽しく生きていけるけど、ちょっと知っていると面白いし、デザインに関わる人なら必須だろうと思う。あ、いや、むしろ常識なのかもしれないが。
黄金と白銀、その微妙な、だが決定的なバランスの違いは、著者は触れていなかったけれど、私は個人的には、やはり欧米人と日本人(東洋人)の体型の違いからきているのではないか、と表隣の芝生は青い、強い憧れはあるけれど、それでもやはり身近なものは何より安心で落ち着きを与えるもの。そこに完全の美を見出すのは自然なことだと思う。
なぜ富士山がこうも美しいのか、それは自然の作り出した絶妙なバランスを体現しているから。そんなことがわかるだけでちょっと気持ちがいい。
15 nov 2015