「ヴィヴァリーニ。ゴシックからルネサンスへ、絵画の煌めき」展、コネリアーノ |
これまた、会期終了間際にぎりぎりに飛び込んで、見てよかった!と思った展覧会の1つ。
ヴェネツィアで、後期ゴシックからルネサンスへの移行期に活躍したヴィヴァリーニ一家は、ヴェネツィアにもたくさん作品が残っている割に、表題にもある通り、かなりゴシック要素を強く残したスタイルが印象的なためか、いわゆる「巨匠」とされるベッリーニやカルパッチョ、ティツィアーノの影に隠れて、ついつい忘れられがち。さらに、当時の画家らとしては当たり前なのだが、家族経営の工房製作が基本で、同じ苗字なのにたくさんの名前が出てくること、そしてそれぞれの作品の作者の区別がつきにくいのもあって、私自身も、「はい、ヴィヴァリーニ(の誰か)ね」とお茶を濁して過ごしてしまうことが多かった。
今回の最大の収穫は、家長アントニオ、弟バルトロメオ、そしてアントニオの息子アルヴィーゼの3人のその親子関係と、それぞれの特徴が明確になったこと。もちろん、共作や工房作も多いから、きっぱりと区別がつけられないものもあるのだが、それでも、いわゆる「ヴィヴァリーニ」な、フリフリのアーチがたくさんついた縦長で木彫の額縁でそれぞれが分けられ、背景は金地の多翼祭壇画に代表されるアントニオの作品と比べ、バルトロメオとアルヴィーゼは、それぞれ違った道を模索したことがよくわかる。
特に「発見」だったのがバルトロメオ。もともとはプーリア州の教会のために描かれ、現在はナポリ・カポデモンティ美術館にある「聖母子と聖人たち」(1465年、画像一番上)は、金彩の額縁を取り払い、聖母子と聖人たちがあたかも同じ空間を共有しているかのように1枚の絵の中に一緒に描かれ、正円と直線で構成された聖母の座る玉座はレリーフで装飾され、まるで建物のアーチのよう。背景は金地でなく果樹園のような風景で、玉座の上部には、天使たちが支える、フルーツと花でいっぱいの緑のアーチ。
これまで認識していた「アルヴィーゼ」風とは異なる、完全なるルネサンス的作品で、思い起こされるのが、ヴェローナにある、アンドレア・マンテーニャの「サン・ゼノの祭壇画」。
マンテーニャといえば、ヤコポ・ベッリーニの娘と結婚し、ベッリーニ一家に多いに影響を与えた、ヴェネト・ヴェネツィアのルネサンスの基礎を作った人。マンテーニャは、ヴェネツィアの隣町パドヴァを中心に活躍していたが、ヴィッヴァリー二一家は一時、パドヴァに居を構えていたこともあり、そのときに交流があったらしい。
ところがこのバルトロメオ、年を経るごとにだんだん、線が濃く、衣類の襞がきつく、顔も険しくなっていく。ゴシックな額縁に縁取られながらも、優しく柔和で、人間らしい表情を描いていたアントニオよりもさらに、ラインが強調されて全体に固くなっていくのはなぜなのか、興味深い。
一方、初めはこの叔父とともに仕事をしていたアルヴィーゼは、ベッリー二やジョルジョーネら、ラインよりも色と光で見せる手法に傾倒し、またラファエロに大きく影響を受けたという。そのアルヴィーゼの作品は、ここでは展示数が多くないためもあるが、確かにいろいろなスタイルがごちゃまぜでやや散漫な印象を受ける。唯一、はっとしたのは、ヴェネツィアのサン・ジョヴァンニ・イン・ブラゴラ教会にある「蘇生するキリスト」。まるでモデルのような、妙に美しい救世主の立ち姿はともかくとして、左側に描かれた、驚き見上げる兵士たち(?)の構図。キリストに対してやや大きめの人物らが、画面いっぱい、半身だけが描かれた図は、時代をかなり先取りしているように思われる。
もう1つ特筆すべきは、この展覧会、ヴィヴァリーニの地元であるヴェネツィア、パドヴァからはもちろん、クロアチアからプーリア州のバーリに至るまで、広くアドリア海沿岸一帯の作品を集めていたこと。
ヴェネツィア共和国がアドリア海の女王と称された時代、ヴェネツィアの支配下とはいえ飛び地でもあった沿岸地方で、ヴェネツィアの画家が求められたのは当然といえば当然なのだろうけれど、現在は行政上バラバラに分断されて、あまり共通点も交流も持たないように思われるアドリア海沿岸地域でヴェネツィアという一つの文化を共有していたことは、興味深い。同会場では昨年も、ヴェネツィアからイストリア(クロアチア北部沿岸)にわたるカルパッチョ親子の企画展を行っていたが、今後ともそんな研究や展覧会が続くといいと思う。
(画像はすべて、公式サイトから拝借)
ヴィヴァリーニ。ゴシックからルネサンスへ、絵画の煌めき
2016年7月17日まで(会期終了)
コネリアーノ、サルチネッリ館
I Vivarini. Lo splendore della pittura tra Gotico e Rinascimento.
20 feb - 5 giu (prorogato al 17 lug) 2016
Conegliano, Palazzo Sarcinelli
http://www.mostravivarini.it/it/la-mostra/la-mostra
20 lug 2016