第73回 ヴェネツィア映画祭・6〜まさかのベニクラゲ博士登場 |
そして今年の映画祭、コンペティション部門には日本の映画が1本もないのね、なんて油断してたら、思わぬところで思わぬ人が現れた。
日曜日の午後、燦々と輝く太陽の下、レッド・カーペットに堂々登場したのは、京都大学瀬戸臨海実験所の准教授、久保田信さん。お恥ずかしながら私は知らなかったのだが、通称「ベニクラゲ博士」、なんと不老不死のベニクラゲの研究で世界中に知られる権威なのだとか。
マッシモ・ダノルフィ、マルティーナ・パレンティというイタリア人2人が監督を務めるドキュメンタリー作品なのだが、単純に、ベニクラゲと久保田氏の生活を追うドキュメンタリーでは全くない。いくつもの、時も場所も内容も、言語も違う破片が次々と提供され、はじめはまるでこんがらがった色とりどりの毛糸のよう。それを少しずつ少しずつ、頭の中でほぐしていくのだが、終盤になって久保田氏が長めに登場するところでようやく、すうっと1本、糸が抜けてそれぞれの色が見えてくるようになる。
それぞれの映像はドキュメンタリーなのだろうけれど、作品としてはかなり実験的、かつ、うまい言い方がみつからないのだが、いい意味で人工的。
火、水、土、空気の4元素を想定した4つのオムニバスのパズルのようだが、もともと、数年前に監督らが、ニューヨークタイムズで久保田氏の記事を読んだことから、この作品のインスピレーションを得たという。
誕生から成長、衰退とやがてくる死を迎えるのが、生命体の運命だと思っていた。だがこのベニクラゲのようにいつか、人間も永遠の命を得ることができるようになるのだろうか。
Spira mirabilis
監督 Massimo D’Anolfi, Martina Parenti - イタリア、スイス、121’
ドキュメンタリー
73. Mostra Internazionale d'Arte Cinematografica
31 ago - 10 set 2016
http://www.labiennale.org/it/cinema/73-mostra
5 set 2016
ベニクラゲのように微小な生物なら永遠に生きても脅威にはならないでしょうけど、人間が不死になったら、数をおさえる為に選別、言い換えると誰が死ぬべきか、が起きると思います。
現実には、地球上の数かぎりない生物の中で、(今までのところ発見された限りは)ベニクラゲというクラゲだけが不死という特異な性質を持っている・・・そこにはきっと、やはり何か理由があるのだろうと思います。
果たして人類に応用できるのか、それはわかりません。不死はともかく、不老ーアンチエイジングは最近、無駄と知りつついろいろと抵抗を試みている者として切実です。