Fuocoammare〜「海は燃えている」 |
一人の男の子とその周囲をめぐる日常。イタリア中どこにでもありそうな家族。漁師のおじと小型ボートで漁に出る。彼らが暮らしているのはイタリア最南端、シチリアからさらに南にある島ランペドゥーサ(Lampedusa)。
地中海に浮かぶこの小さな島は、イタリア本土はもちろん、シチリアよりもチュニジアに近い。まさにその立地条件のため、毎日毎夜、北アフリカからヨーロッパをめざす難民たちを乗せた船が流れつく。さびついたフェリーに、ときには単なるゴムボートに、定員など最初から考えることもなく一人でも多くと詰め込まれて命からがらたどり着くその人々の中には、子供たちやお腹の大きな女性もいる。残念ながら過酷な航海のさなかに命を落とすものも少なくない。どうにかたどりついた者たちも皆、飢えと渇きと、あるいは火傷と、一刻を争う手当を必要としている。
わずか20キロ平米の同じ島の中で起きている2つの現実はしかし、決して交わることがない。・・・ほんのただ1点を除いて。
一方、難民漂着のニュースを聞いて「ひどいこと・・・」とつぶやくおばあちゃんの声はしかし、あくまでも他人事だ。そう、まさにイタリア全国のどこの家庭でおきていそうな、ごくふつうの家庭での一コマ。
だが、そんな日常を、世界中でほとんど難民を受け入れていない日本でとやかく言うことはできない。世界のどこかで、いや、世界中のあちこちで、祖国を追われ、愛する土地や人を置いて逃げねばならない人々が今も数多くいる。
ランペドゥーサには実は、もう1つの「顔」がある。
海の透明度が高く、天候次第では入江に浮かぶボートがまるで宙に浮いているように見えるというので、その写真がインターネットなどで紹介されると、たちまち人気の観光スポットとなったという。
この映画にはしかし、その「顔」は登場しない。
同作品は、ベルリン映画祭で見事、金熊賞に輝いた。ジャンフランコ・ロージ監督はヴェネツィアでも2013年に、ローマの周辺部に暮らす人々の日常を捉えた「サクロ・グラ(Sacro GRA)」(邦題は「ローマにも環状線、めぐりゆく人生たち」)で金獅子賞を得ている。ヴェネツィアもベルリンも、ドキュメンタリーがコンペの最高賞を獲得したのは、確かどちらも初めてだったはず。あっと驚かせるような映像ではなく、静かに丁寧に被写体を追ったロージ監督の手法と作品は、フィクション以上に多くの人の心に迫るものがあるということだろう。
イタリアで見たいと思っていて、見逃してしまっていた映画。日本で見ることができてよかった。
https://youtu.be/-IgaGgZbuwQ
海は燃えている
Fuocoammare
監督 ジャンフランコ・ロージ
イタリア、フランス、2016年、106分
http://www.bitters.co.jp/umi/
19 feb 2017