「地球にちりばめられて」、多和田葉子・著 |
生まれた国を出て、別の国で暮らすすべての人へ。外国語を学ぶ、それもできれば英語ではなく別の言語を学ぶすべての人へ。地球の上で旅をするすべての人へ。
はじまりは雨のコペンハーゲンから。
・・・僕の家の前は石畳の歩道の向こうが小さな公園になっているので、雨が石に当たる爽快な音と土に吸われる柔らかい音がちょうどいい具合に混ざり合って、いつまで耳を傾けていても飽きない。
わかる、気がする。4年前の夏に、急に思い立って出かけたコペンハーゲンは澄みわたる空気と街並みが美しいところだった。いや、むしろヴェネツィアのアパートを思う。
雨が降っているから外に出ないというわけじゃない。
そう、そんな日がいくつも、あった。
小さな展開が1つ起こる。さて次は、というところで、今度は地球上の別の場所に舞台が移り語り手が交代する。時間が少し、巻き戻る。ごとり、と地球が自転する音が聞こえるよう。ふと、ジム・ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」を思い出した。ロサンゼルスやパル、ヘルシンキと地球上の全く別の場所で同じ時間に起こるタクシー運転手の話。オムニバスという映画の面白さを、おそらく初めて知った映画だった。
だがここでは、それぞれのお話は全く別ではなく、逆に全部つながっている。5本のマッチがすべてバラバラの方向を向いて1つの空間を構成するのではなく、パズルのピースを1つ1つ埋めて、絵が完成するように。いや、ここで鍵となるのは、絵ではなく、「ことば」なのだけれど。
フィクションだがリアルで、部分的に伝わる情報が、何もないよりも余計に不安をあおる。ぎゅっと踏み出した足元がぐらりとゆれる。この先にいったい、何が待ち受けているのか?
ずっと気になっていた作家、多和田葉子さんの最新刊。
これまでの作品もやはり読んでみたい。
12 mag 2018