「十二章のイタリア」、内田洋子・著 |
内田洋子さんのエッセイはいつも、ピリリと辛い。
うだうだと、いまだ森の中で迷い、ぼんやりと立ちつくしている私には、何ぐずぐずしてんのよ、甘いわよ、とカツを入れられているような気にさせられることが多い。それも、竹刀でびしっと外側から背筋を正されるのではなくて、ぎゅっと胃のはじっこと掴まれるような緊張感。
大学の専門科でイタリア語を学び、仕事がないならば自分でと、ミラノで通信社を立ち上げイタリアのニュースを日本に送り続けてきたという内田さんは、同じイタリアをうろついていたとはいえ、私からみるとまさに雲の上の存在だが、その内田さんも当初はずいぶんと迷い、苦労されたらしい。
これまで読んだいくつかのエッセイの中では登場しなかった、そんな初々しい内田さんがさらりと登場する。
だがやがて、助走を終えた飛行機のように、内田号は低いうなりを立てて飛び立つ。青い大空を見上げると、雲の間を抜けて美しい直線を描いている。
最後の2章はヴェネツィアから。内田さんはこのあと、「対岸のヴェネツィア」という本でヴェネツィアを解剖しているが、それはやはり私にとって肌にすうっとなじむ、呼吸をするのと同じくらい自然な場所で、大空を駆けてきた飛行機がこちらに近づき、ラグーナをなめるようにして着陸する、そんなふうに感じる。そしてここでの主役は「本」。実はここから、「モンテレッジョ」というトスカーナの小さな村へとつながっていく。
旅は、続く。
15 lug 2018