イタリアの、不思議の世界へ~「デ・キリコ展」 |
先月の帰国中、体調不良などもあり行きたかったのに行けなかったところなども多々あるのだが、唯一、タイミングよく訪問できたのが、東京都美術館で開催中の「デ・キリコ展」だった。
美術や美術史はもちろん、もしかして世界史の教科書にも載っているかも?誰もがどこかで必ず目にしたことがあるであろう、何か不安を誘うような不思議な絵を描いたジョルジョ・デ・キリコは、1888年のギリシャ生まれだが両親はイタリア人だった。
今から(もう!)20年も前にヴェネツィアで学んだとき、イタリア美術史は、中世、近代、現代に分けられていた。中世は、西ローマ帝国崩壊(紀元後476年)からアメリカ大陸発見(1592年)まで。近代は、その1592年からフランス革命まで。現代は、フランス革命以降、今日まで。中世はともかく、近代、現代は、日本語や日本史の感覚からするとだいぶずれて感じるが、イタリア史など西洋史の分類がそのようになっていて、美術史はその分類に準じていた。最も、当時から既に「現代(Contemporanea)」が長く、幅広くなりすぎるといった議論もあったようだが、20年経った今でも、おそらく変わっていないだろうと思う。イタリア史が中世から始まるのは、その前は「ローマ史」で、美術史の代わりに「ローマ考古学」があった。
そんな訳で、特に美術に詳しかった訳でもない私でも、その作品も名前も知っていた「ジョルジョ・デ・キリコ」という画家は、当然「イタリア現代美術史」の中で登場したのだが、何しろ、新古典派から今までという長く複雑な歴史の中で、かつ、美術の中心がイタリアでなくフランス、ドイツやロシア、そしてアメリカへと移っていく激動の時代において、イタリアの中でも独自な、この孤高の画家について、詳しく学んだ覚えが正直あまりない。その後、私自身の関心が特に中世へと傾倒していく中で、自分から追求することもなかった。
前置きが長くなってしまったが、そんな訳で、知ってるようでほとんど知らないこの、ちょっと気難しそうな画家について、こうしてきちんと、積極的に知り、たくさんの作品を体型的に観ることのできた、初めての機会となった。
人の姿がほとんどなく、建物の長い影が何かを暗示しているようで不安を誘う、イタリアの広場を描いたのは、20代のころ。「形而上絵画」として評判を呼び、その対象は室内へと移行する。やがて、いわゆる伝統的な絵画、すなわちルネサンスからバロック期の作品に傾倒し、同じ画家とは思えない全く異なる作風とテーマで描いているのだが、この頃の作品は、なんというのか、何かかえってその力を持て余しているように、戸惑いを抱えているように見える。
同世代でありながら、次々とスタイルを変えては世間を驚かせ、美術の「今」をぐいぐいと引っ張っていった、いわば時代の顔であり続けたピカソと対照的に、デ・キリコは結局、若かりし頃の自分のアイコンとも言えるスタイルに戻っていく。苦悩と不安を抱えたままで。
間違いなく20世紀の天才の1人でありながら、その苦悩を抱え続けた画家に、少し近づけた気がする。
デ・キリコ展
2024年4月27日~8月29日
東京都美術館
25 ago 2024
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