フラーリのもう1つのお宝、8世紀にわたる織物・服飾史 |
かつて織物や刺繍による高級生地は金銀に匹敵、あるいはそれ以上に貴重で、王侯貴族や裕福な人々の間で競って求められたのと同時に、絵画や彫刻、金銀細工や金銭そのものと同様に、教会にも多く寄進された。
それらは、祭壇などを飾るものもあったが、その多くが聖職者、その教会の司教や大司教らの祭事用装束に使われた。
ティツィアーノの「聖母被昇天」、ベッリーニの3翼祭壇画をはじめ、ヴェネツィアを代表する芸術家たちの作品で知られる、サンタ・マリア・デイ・フラーリ教会(Basilica di Santa Maria dei Frari)は、フランチェスコ修道会として、ドメニコ会の聖堂であるサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ教会と並び、ヴェネツィアではサン・マルコ大聖堂に次ぐ存在としてかつては政治にも、今でも文化的に大変重要な教会。
そのフラーリで、所蔵する布ものの整理、カタログ化が行なわれ、その記念に「作品」の一部が同教会内で一般公開されている。
「フラーリの織物美術8世紀」と名付けられた展覧会、13世紀のサマイト(sciamito)とよばれる絹織物から、20世紀の、ベヴィラックア社による模様織りのビロードまで、すばらしい布製品の数々お展示。
特筆すべきは、カタログの表紙にもなっている、大外衣(Piviale)。赤を基調に、銀糸を織り込んだビロードの模様織りは、その模様の繊細さ、豪華さが圧倒的だが、「玉虫色」の名の通り、見る角度によって強い緑が現れたり消えたり。
15世紀の、トルコ製とする説が定着しているが、今回のカタログ化の責任者であるドレッタ・ダヴァンツォ・ポーリ氏は、当時ヴェネツィアやフィレンツェから多くのビロードがトルコに輸出されていたことから、ヴェネツィア製の可能性もあることを指摘している。
展示はショーケースに横たわった形になっているが、図録の写真のように、マネキンに着せた、つまり裾を流した様子もぜひ見てみたいもの。縁にさらに豪華な金糸の刺繍の帯がついたピヴィアーレというマントは、例えば同じフラーリ教会内、ジョヴァンニ・ベッリーニの三翼祭壇画で聖人がまとっている姿を見ることができる。
どれもすばらしいのだが、布ものの場合たいがい、一言で言うと、古いものほど見る価値もぐっと高くなる。単純に、いくら貴重品で大切に保存されているとはいえ、それでも天然繊維でできた布ものは風化し、あるいは虫食いやカビなど、保存が難しいことと、もう1つは何百年も前のものほど、織物にせよ、刺繍にせよ、より細かい糸を使っているなど技術も高く、今ではむしろ再現できないものも多いから。
今回の展示の中で最も古いものが、こちらのサマイト(イタリア語ではシャミート、sciamito)、13世紀ヴェネツィア製。丸い輪の中に動物が左右対称に向き合うモチーフは、9世紀ごろから作られ始め、大きさや模様、動物を変えながら14世紀まで続いた。日本の「龍村」の古代ものによく似ているのは、やはりイタリアでも当時ペルシアなど東方からの影響が大きかったため。
その隣に並ぶクッション・カヴァーは、そのモチーフをかなり幾何学的に発展させたもの。こちらはリネン地に絹糸と銀糸による刺繍で、14世紀ヴェネツィア製。
この2点はほんとうに存在自体が稀少で、展示を見ることもほとんどない。ありがたい、大変貴重な機会となった。
マネキンに着せてガラスに入れず直接見せてあるのは、17世紀以降の、主に「カズラ(Pianeta)」と呼ばれる祭服。ブロケード(broccato)と呼ばれるいわゆる錦織が中心だが、模様の流行の変遷をよく示している。
19-20世紀に入ると、刺繍によるピアネータが増えてくる。産業革命以後、織物はもはや消耗品で貴重品ではなくなり、一方で祭服にはあいかわらず一定の、付加価値が必要であるためだろう。
Otto secoli di arte tessile ai Frari
Basilica di Santa Maria Gloriosa dei Frari
fino al 2 nov 20142014年11月2日まで
28 ott 2014