「冨田伸明の着物」展、ウールのメッカ、ビエッラにて |
紳士服などの高級ウール生地の生産で知られるビエッラ(Biella)の市立博物館で、着物スタイリスト、冨田伸明さんの作品展が行われている。
映画や舞台で使われる着物を主にデザインされている冨田さん、展示されている作品は、着物でもとくに華やかなものや、時代ものなどが中心。中には、アメリカ大リーグの始球式用の着物、なんていうのも。
それぞれ貴重な一点ものだが、それが同博物館の常設展示の中にそのまま展示されている。イタリアでは、企画展用のスペースを持つ美術館がまだまだ少ないことから、常設展の中で企画展を行う例は少なくないが、それがかえって面白い効果を生み出すことが多い。時代も文化も、技法も目的も全く違うものたちが、ピタリとはまってそれぞれの良さを引き出すような展示はまさにイタリアらしく、展覧会自体もまた唯一無二の存在となる。
初夏の庭に競い合うように咲き乱れる花にもなれば、全く違和感なく馴染む展示ともなるのがまた面白い。
面白いといえば、着物の制作にもいろいろと新しい技法を取り入れるのを得意とする冨田さん、こちらはなんと、南イタリア、ソレント特産のリモンチェッロ(limoncello)というレモンのお酒を使って染めた友禅。どろりと甘〜くて強いレモン酒が、こんなに繊細で極めて上品な着物になるのは不思議なくらい。
一方こちらは、地元ビエッラの老舗、チェッルッティ社の極薄ウールと着物地と合わせたもので、なんとリバーシブルの着物を仕立てた。いわゆるスーツ用の(それも超高級な)生地だが、まるでシルクのように滑らかで柔らかく、それでいて張りのある生地は、これも高品質な絣のようで意外にもほとんど違和感がない。
導入部には、同市図書館所蔵の、日本にまつわる書物の展示も。
イタリアのファッション界を影で支える町ビエッラ。イタリアはこうした、小さな町がまた面白い。
冨田伸明の着物
ビエッラ、ビエッラ地域博物館
6月7日まで
I Kimono dello stilista Nomuaki Tomita
Biella, Museo del territorio biellese
16 mag - 7 giu 2015
http://museo.comune.biella.it/2015/05/20/i-kimono-dello-stilista-nobuaki-tomita/
26 mag 2015
リモンチェッロで染めた着物というのに、思わずおおっと唸りました。さわやかなレモン色の時に手描きの蘭の花もすっきりとして、
明るい色で顔映りもよさそうだし、纏ってみたいなあ!
以前、日本でリースリングだったかの白ワインで染めた色無地の反物を手に取ったことがあります。それも淡く透明感のあるクリーム色に
織の地紋が浮き出ている陰影がすっきりと美しかったのを思い出します。
染めは、もともとの色がそのまま出るわけではないし、奥の深い世界のようですね。もっともっと、いろいろなものを見てみたいです。