第72回 ヴェネツィア映画祭・4〜明るくない未来と鮮明な現代と |
白い壁に何も散らかっていない部屋、ベッドもクローゼットも必要に応じて壁からすうっと姿を表す、高層ビルの一室。アイロンのかかった服を着込み、オフィスへと向かう。
全身白の詰襟の制服は、かつて日本に存在した、宗教をかたった某犯罪集団を思わせて不気味だ。
整然と、すべてが規則正しく機能しているような、近未来。
「恋煩い」とはよくいったもので、この世界では人々の感情・・・とくに恋愛が御法度らしい。いや、御法度などというと古めかし過ぎる、つまり恋愛を含む個人の感情はウィルス感染という言葉に置き換えられ、程度により、要観察から隔離へと段階付けられる。
そしてなるほど、感染した2人を除けば、あとは皆まるで、ロボットのよう。
うーーーん。・・・一体何が楽しいのだろう?・・・映画の中の世界も、そして映画としても。テクノロジーの進歩に依存する現代社会への逆説的警告なのだろうか?
ロボットと人間を行き来するかのようなSilos を演じたKristen Stewartは確かに、美しかったけど・・・。
Equals
監督 Drake Doremus - Usa, 101’
出演 Kristen Stewart, Nicholas Hoult, Guy Pearce, Jacki Weaver
テーマといい、色といい、前者と究極に対をなしていたのが、今回唯一のドキュメンタリー作品であったこちら。
火、土、太陽の光、地中の水、そして過酷な世界で生きる人々の顔。中国の炭鉱で働く人々の生活を淡々と追ったこの映画では、ドキュメンタリーであるというだけ以上にすべてがリアルで、その温度や匂い、質感がスクリーンからただよってくるようですらある。
そして彼らが、単に3K労働であるだけでなく、肺病に苦しむ人が多いという事実には身につまされる。
忘れてはいけない、目を背けてはならない現実。
・・・だが、正直のところ、映画祭のコンペとしてはどうなのだろう?と思う。急速な経済成長の裏に共存する貧困層、労働者の生活については、もうそろそろいいのではないか、と。いや、一映画作品としてはあってもいい、だが、コンペティションに入れるには、正直のところもうあまり新鮮味がない、と思ってしまった。
Beixi moshuo (Behemoth)
監督 Zhao Liang - Cina, Francia, 95’
1° ott 2015