「Makoto, Ulisse II 」展、ヴェネツィア国立考古学博物館 |
古いものと新しいものが混在し、交錯する、そんな展示にはビエンナーレをはじめ、イタリアの現代アート展では慣れているというか、もはや珍しくないといえるだろう。
だが、古代の作品と現代の作品が、ほんとうの意味で対話をしている場というのは、そうしばしば出会えるものではない。
ギリシャ神話の中で「トロイの木馬」を考案したなど知将として知られ、また長い放浪の旅の物語の主人公でもあるオデュッセウス(イタリア語でUlisse、ウリッセ)は、古代よりしばしば好んで彫刻や絵画の題材として好んで描かれてきた。
サン・マルコ広場を囲む建物の中にあり、実際はコッレール美術館と中でつながっているヴェネツィアの国立考古学博物館は、先日も紹介したばかりのグリマーニ館の家主、ドメニコ・グリマーニ枢機卿の個人コレクションがその核となっている。「ウリッセ(Ulisse)」は、紀元後2世紀の作品で、今にも動き出しそうな絶妙なバランスで立つ像ギリシャ、ローマ時代の彫像からコインまで貴重な所蔵品を持つ同博物館の中でも、とくに重要な大理石彫刻の1つ。16世紀、つまりグリマーニ所有時に修復の手が入っている。
ミラノ在住の作家・小林誠さんの作品「ウリッセII」は、そのローマ時代の「ウリッセ」の「抜け殻」。これまでに生身の「人」の「抜け殻」を作品にしてきた小林さんだが、さすがに国の重要な文化財である「ウリッセ」から直接、型を取ることは許されない。そこで活躍したのが3Dのスキャナー技術なのだそう。・・・ということは、現代のウリッセは古代の抜け殻の抜け殻?
「抜け殻」というとたとえば、飛び立つ蝶がさなぎの殻を木の枝に残していくように、あとに残されるもの、というイメージだが、ウリッセの抜け殻はこうして高い位置に展示されていることもあって、むしろ生身のウリッセからはがれて、風に乗って天にのぼっていくような、自ら意志を持つ存在に見える。抜け殻=捨て置くもの、ではなく逆に、体からぐっと引き抜かれた魂のように。
そして不思議なのは、抜け殻なのだからあくまでも体の向きは同じ、つまり平行なはずなのに、これがなぜかお互い向き合って、しかも、何か自然の力で離れていこうとしているものが、強い力で引きよせあっているようにさえ見える。天女の羽衣・・・と言ったら、作家さんに完全に「違います」と言われてしまうかもしれないが・・・。
面白いことに、この「Ulisse II」がいることで、「Ulisse」がより生き生きと見え、とくに彼の声が聞こえてくるような気がする。実は、インスタレーションには「音」も含まれているので、そちらもぜひ、耳を澄まして楽しんでいただきたい。
「ウリッセII」
ヴェネツィア国立考古学博物館
2016年1月31日まで
Makoto, Ulisse II
Museo Archeologico Nazionale di Venezia
18 nov 2015 - 31 gen 2016
http://www.prundercover.com/it/news/169/Ulisse-II.html
22 nov 2015