イタリア人の見た信長、辻邦生さんの「安土往還記」 |
映画や小説にも繰り返し取り上げられ、大河ドラマのテーマとしても最も人気があるとされる戦国時代。その前半、織田信長の天下統一は、当時、商人として日本に滞在したイタリア人の目にはどう映っていたのか?
信長本人とも面識があったとする架空の人物のモノローグで綴られる小説は、「春の戴冠」や「嵯峨野明月記」でもおなじみの、辻邦生さんお得意の手法だが、これにより、歴史上の人物や出来事がぐっと、身近に引き寄せられる。
とくに当時の日本について、文化や風習、ことばや政治についてなど、日本の内外に滞在した宣教師たちが詳細なレポートを書き送っており、その記録が今も残っている。だが、そうした、目的と義務を伴う報告書とは異なり、あくまでも一商人という個人の、友人にあてた私信という形を取っているために、より自由で、率直。さらに、ことばが通じないためにかえって、短気で破天荒で・・・といったステレオタイプの信長ではなく、「冷徹で非情とされるお方」と知りながらも、その内面に入り込み、本質をつかんだことを、遠慮がちながら確信している。
前はもっと、移動中に本が読めたのに、最近は電車に乗ってもついついスマホをいじってしまうか、または即爆睡。何度も中断しつつ、後半は一気に読んだ。今さらだが、やはり面白かった。
8 mag 2016