マエストロのガラス、ダヴィデ・フインの場合 |
コン、コン、コン、カーン・・・と、金属的な音がしたと思うと、そのきゃしゃなグラスはマエストロの支える棒から外れて、アシスタントの支柱へと渡り、そのままさっと除冷釜の中へと運ばれていった。
熱で溶かされたガラスの、小さな塊を釜から取り出してから、わずか10分か15分ほどのことだろうか。吹いて空洞にする、形を整える、開いてまずは脚の部分と、次に器の部分とを用意し、最後に合体させる。マエストロ(巨匠)とアシスタント2人が、ほぼ誰も声を発しないまま、立ち、座り、しゃがみ、歩み寄っては離れ・・・きゅっきゅっきゅっと全く無駄のない動きで時間が前に進んでいく。
ほとんどしんと静まりかえっているといってよい工房で、感じるのはその炎の熱と、ときどき冷えたガラスがはじける、パキッ、ガシャンという音くらい。
マエストロ、ダヴィデ・フイン(Davide Fuin)は、薄く透明で、クラシックなスタイルのガラスで知られる。博物館所蔵品の再現品から実用なグラスまで、一見シンプルなガラスは、それだけに色も形も、ちょっとした歪みも混じり気も許されないから、実はより難しい。
ぼうっと見とれている間にできあがったのは、縦長のフルート型のグラス。シンプルな形で、実用のグラスだろう。同じ作業が繰り返されて、あっという間にまた1つ、できたての同じグラスが除
冷釜へと運ばれていった。
ガラスの仕事の常で、何もかもがすべて、あたかもごく簡単に行われているように思われる。彼らの手にかかると、熱を受けたガラスは、自由自在に伸び、まとまり、思いのままに形作られるのかというような。・・・でも、騙されてはいけない。
この日のグラスは、表面に特殊な加工を施すため、途中、型に当てて吹く場面もあったが、ほとんどのグラスではこの作業は行われないらしい。別の日に訪ねたときには、確かに型は一切使わず、すべて手元の作業のみで完成していた。
繊細で、手にとると羽のように軽いグラス。
いつかここの、ワイン・グラスを揃えられたら、いいなあ・・・(タメイキ・・・)
(ああ、その前に、まずはもうちょっとマシな写真が撮れるようになりたい・・・)
ダヴィデ・フインのグラスが買えるお店
Rossana Rossana
Riva Longa, 11 Murano
tel. 041 5274 076
Martinuzzi
S. Marco 67/a (Piazza San Marco), Venezia
tel. 041 5225 068
23 lug 2016
読んでいるとあの時の光景が、目の前にあるかのように浮かび上がってきました。
今でも夢だったのかと思うほどに、素晴らしい一瞬の手仕事でした。
ほんとうにすばらしいお仕事ですよね。写真にはうまく撮れなかったのですが、一度膨らましたガラスにぱっと穴をあけて開いていくところなど、まるで水の魔術のようで美しいと思いました。まさに夢のようです・・・。