「ナイルのモザイク」、ローマ近郊パレストリーナにて |
カバやワニ、多くの水鳥、そしてわかるようなわからないようなファンタスティックな動物たちから、舟に乗り、あるいは河岸にしつらえたテラスや、神殿に集う人々まで、世の生命あふれるものたちが、喜びあふれる姿でその豊かな水を享受している。
ところはエジプト、ナイル川。ときは今からやや遡って紀元前2世紀ごろ、夏の氾濫期。土地勘がない上に歴史地理にも弱く、そう言われればそうなのか、と思うしかないのだが、全体がエジプトの地図を示しており、上部はエチオピアとの国境近くを、そこから下部の地中海沿岸へ流れる雄大なナイルを描いており、右下がアレッサンドリアの港らしい。
この絵巻物語のような絵は、モザイク画。さまざまな色石を数ミリ四方にカットし、下絵に沿って並べたもので、こうした床モザイクは、ローマ時代に邸宅や公共施設の床の装飾として大きく流行、発展したため、ローマを始め、各地にその断片が残されているが、これは、ヘレニズム時代のもので現存する最大、また、その内容、色彩の豊かさからみても最良のモザイクとされる。
この「ナイルのモザイク」は、ローマ近郊、パレストリーナ(旧プラエネステ)の街の中で発見されたが、当時この街にあった神殿の中央祭壇の床を飾っていたと考えられている。手がけたのは、アレッサンドリア出身の職人たち。
17世紀始めに発見され、それ以来、分断、現場からの隔離、いい加減な修復、並べ替え、移設・・・等々、さまざまな変化に堪えてきたが、現在はパレストリーナにある、国立考古学博物館で保存、公開されている。
動物たちはよく見るとそれぞれキャプションが。ただしギリシャ語(もちろん当時の)。
ローマ市内から中距離バスに乗って、しかもバス停からこの博物館への道も簡単ではなく、なんだか半信半疑だったが、だからこそ、ようやくたどり着いて実際に目にしたときには、ほんとうに感激した。
強いていえば、全体が大きい上に、1つ1つのテッセレ(カットした大理石の片)がかなり細かいため、ロープのこちら側からだと微細が見えづらい。願わくばロープなしで、もっと間近からまじまじと観察したいものだが・・・。
・・・と、実は感激の初対面から、気が付いたら既に4年以上の時が経っていた。なので、博物館的環境は多少変化があるかもしれない。
いずれにせよ、モザイク・マニアには欠かせない必見のモザイクの1つ。
“Mosaico del Nilo”
Museo Archeologico Nazionale di Palestrina
31 lug 2016