カルミネ・アバーテ、「偉大なる時のモザイク」「ふたつの海のあいだで」「風の丘」 |
地中海の真ん中に突き出た、その地の利のために、古くから多くの民族がめざし、たどりついては住み着く、そんな歴史を繰り返してきた南イタリアの、その中でももっとも先端にあるカラブリアの地。
幾度も為政者が変わり、やがて見捨てられた土地となり、多くの人が生きていくために、北イタリアやドイツ、果てはアメリカに出稼ぎに行くかまたは家族ごと移住する。
そんな中で生まれ、暮らす家族の、幾世代にもわたる物語。
無法地帯をいいことにはびこる犯罪組織。荒れ果てた土地。2つの大戦の傷あと。風光明媚な観光リゾート地としてのポテンシャル。いずれもスケールが壮大で、地理的にも歴史的にも、いなかの小さな村から時間軸も地図も、思わぬ方向へと拡大していく。
キーワードは「家族」そして「移民」。地に根ざした家族の業。ともかく血が濃い。
著者カルミネ・アバーテの生まれ育った地を舞台に繰り広げられる3つの物語はしかし、それぞれ全く異なる小説で、それぞれの中でいくつものエピソードが折り重なって1つの本を構成している。
1つは、5世紀も前にアドリア海を渡り命からがらこの地にたどりつき、やがて根をおろしたアルバニア人コミュニティを舞台に。
1つは、かつてアレクサンドル・デュマも訪れたという「宿」をめぐって。
1つは、大ギリシャとよばれた、南イタリアに多く点在したギリシャ植民都市の1つ、伝説の遺跡を求めて。
異なる民族、ことば、世代がぶつかりあうところに大きなエネルギーが発生し、新しい何かが生まれる。
強い意志と信念を持って努力する。されば実るのか?・・・いや、残念ながら、それが強ければ強いほど、目の前にあらゆる障害が立ちふさがり、ときに襲いかかってくる。それはときに自然であり偶然であるけれども、そのほとんどは権力であり周囲の嫉妬であり、抗っても闘っても、次々と形を変えてまた返ってくる。
いずれも、邦題が原作のタイトルに忠実なのもうれしい。
面白くて引き込まれて、3冊続けて、一気に読んだ。
偉大なる時のモザイク Il mosaico del tempo grande
栗原俊秀・訳
ふたつの海のあいだで Tra due mari
関口英子・訳
風の丘 La collina del vento
関口英子・訳
カルミネ・アバーテ
Carmine Abate
1° set 2017
新潮社のクレスト・ブックスはメジャーな出版社の中では、海外文学の翻訳を根気よく続けていますね。
新潮社の「なみ」に、現在短期連載で、新潮社の社食のことが書かれています。面白いですよ。
「波」はノーチェックでしたが、今度みてみます。