「美術の力 表現の原点を辿る」、宮下規久朗・著 |
見てただただ美しい、気持ちがいい、癒される、あるいは衝撃を受ける・・・そんな作品もあるだろう。21世紀に生きる私たちにとって、美術とは作家個人の自己表現であり、メッセージであると考えることに慣れている。
だが、毎年のように西洋の美術作品を巡って歩いてきた、という著者が、その長い歴史のほとんどがキリスト教とともに発展してきた西洋美術はいうまでもなく、美術とは、まず宗教と密接な関係にあると解く。そして、ブームのように日本各地で開催されている現代美術の祭典ではなく、地方に残る供養人形や絵馬の伝統に目を向ける。樹脂やアクリル絵具でできたツルピカのビッグ・アーチストの「作品」ではなく、手垢や汗、血や涙にまみれたような、名もなき人々の願いや思いのつまった「もの」を見に出かける。
そう、美術って、美術の力ってなんだろう。
美術というものをまがりなりにも、だが、ずいぶん遅くから学び始めた端くれとして、常に考え、まだまだ答えが出ずにいるけれど、一つ言えるのは、とくに私の場合はやはり、実際に見ないと何もわからないということ。
美術作品は、その場でこそのオーラを発している。そう言いつつ、宮下先生は国内で開催される多くの企画展にも足を運んで、美術館や展覧会ならではのよさとその希少性、重要性にも言及する。
自分の目で見て、学ぶことで、次の出会いがより深いものへとなっていく。
西洋から日本、古代から現代まで、宮下先生の幅広く深い知のうちのほんの一部を、こうしてコンパクトな新書に収めて分けていただけるのはとてもありがたい。
そろそろ先生ご本人の講義を聞きたいなあ~・・・。
美術の力 表現の原点を辿る
宮下規久朗・著
光文社新書
15 feb 2018