光明寺の「当麻曼荼羅縁起絵巻」 |
むかしむかしあるところに、やんどころなきお姫さまがいました。
お上に仕える立派な大臣(おとど)の姫君で、たいそう美しく、大切に育てられていました。
姫はたいへん信心深く、長い長い「称讃浄土経」というお経を1つ写して、美しい飾りをつけて大和の当麻寺(たいまでら)というお寺さんにそれを収めました。そしてそれにあきたらず、とうとう長く美しい髪を下ろし、出家したのです。
お祈りの日々を過ごす姫の前にある日、ひとりの尼さんが現れました。そして、阿弥陀如来さまを拝みたてまつるためには、と、山ほどの蓮の茎を集めるよう姫に命じます。姫がお上にお伺いをたてたところ、お上は近江の民に命じ、蓮を集めさせました。
そこへふたたび、あの尼さんがやってきました。蓮の茎を折っては糸を取り、またたくまにつむいでいきます。さらに、糸を染めるための井戸を庭に掘らせました。蓮の糸をその井戸につけると、あらあら不思議、糸は5色に染めあがっていくではありませんか。
糸ができあがったところへ、今度は見知らぬ美しい女性が現れます。姫が染め上げた糸を差し出すと、彼女は機織りに向かいます。そうして、一晩のうちに、みごとな曼荼羅を織り上げたのでした。尼と姫がその前でひれ伏している間に、女性は5色の雲に乗って、天へと運ばれていきました・・・。
鎌倉八幡宮内にある国宝館の企画展で、「当麻曼荼羅縁起絵巻」の展示を見たのは1年前の3月のこと。鎌倉の光明寺に伝わるこの絵巻は、奈良の当麻寺にある曼荼羅の由来を描いたもので、鎌倉時代(13世紀)を代表する作品の1つ。このときはちょうど機織りの部分が展示されていた。紙を横に繋げていくのが一般的な絵巻と異なり、紙を縦にして繋いであるためにふつうより「大型」な絵巻、その画面を大きく使って描かれた場面は、いかにも豪華で立派な綴降りが織られている。その美しさもさることながら、精密な描写を驚きを持って眺めた。
うわっこれは、もうちょっと詳しく知りたい、と思っていたところ、すぐあとになんと、その光明寺で寺宝展があり、江戸時代(1793年)に制作された「当麻曼荼羅絵巻」の江戸時代の写本、2巻全編が展示された。こちらの写本自体、一般公開されたのは初めてとのことで、全長7mx2巻はまさに圧巻。絵巻など、日本の美術品が全体どころかなかなか実際にお目にかかるのが難しいのは、紙や絹など素材が繊細なもので保存・保護のためにいたしかたないとはいえ、やはり絵巻などは部分だけ見るのと、こうして全体を通して見るのとでは大違い。例の、機織りの部分はもちろんだが、蓮を集め運ぶ人夫たちや井戸堀りなどのにぎやかな様子や、最後その姫が阿弥陀仏に迎えられ極楽往生するまでの豪華で色鮮やかな絵物語を堪能した。
その「写本」が再び、光明寺にて現在展示されている。
昨年の寺宝展が好評だったのだろう、同じ桜の時期、本堂に向かって左手にある開山堂という建物の中の一室、くだんの写本、2巻がまず中央にびっしりと敷き詰められるように、そしてその周りの壁には、やはり寺宝の「浄土八祖図」や「涅槃図」などずらり。
ふだんは参拝しても直接拝むことのできないこれらの美術品を、年に1回でもこうして見学できるのはとてもありがたい。
おめあての「当麻曼荼羅絵巻」は、写本といえどやはりその魅力はむんむん。そして絵巻ー絵物語の仲間として、時期もテーマも全く異なるのだが、ヴェネツィアにあるカルパッチョの「聖オルソラ伝説」の連作を連想させた。
お姫さまが信仰のために何かを指折り数え上げること、文を持って走り急ぐ使者、奇跡と昇天。カルパッチョの絵も大好き、物語絵は古今東西、やはり面白い。
(絵巻の画像、上2枚は、国宝のほうの絵巻、昨年の国宝館のポスターからスキャンしました。3つめは光明寺公式サイトより拝借)
同時に、山門楼上も公開中。鎌倉一の大きさを誇る山門、上からは(もちろん)海が見える。
「春の光明寺展」
2018年3月24日~4月22日
鎌倉、光明寺
http://komyoji-kamakura.or.jp/「春の光明寺展」開催のお知らせ/
26 mar 2018