歌うように~正戸里佳 ヴァイオリン・リサイタル |
17歳でパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで3位に輝き、現在パリを拠点に活躍する若きヴァイオリニスト、正戸里佳(まさと りか)さんの演奏は、まるで美しい一輪のバラのようだった。
はじめは、ドビュッシーの「星の夜」から。きりっとした立ち姿から奏でる音色は、きゅっと締まった蕾そのもの、ほんのりとひそやかな香りと、何よりも次への予感を漂わせて。まず1つめのヴァイオリン・ソナタで、朝露を浴びてみずみずしい花びらを開き始める。いくつかの小品をはさみながら、2つめのラヴェルのソナタでは5月のさわやかな陽を浴びて、輝く大輪の花で聴衆を釘付けに。
最後、プーランクのソナタの頃には、甘い香りとたくさんの花びらで会場をいっぱいにし、うっとりと、そして華やかなフィナーレ。
「歌」を大切にしているという正戸さんのヴァイオリンは、しばしばほんとうに優しいソプラノのように聞こえた。
そして、10歳ですっでにモルドバ・フィルハーモニーと共演するなど、すでに数々の国際的な舞台も踏んでいる正戸さんだが、上野のホールはまたちょっと特別なのだろうか。息遣いが聞こえるほどのほぼかぶりつきの席で聴いていたのだが、正戸さんは少し緊張しているように見えた。だが、みずみずしくのびやかで、美しい音を奏でる正戸さんの魅力は、そこから生まれているのかもしれない。
正戸さんの音を初めて聞いたのは、イタリア、ジェノヴァで行われていたパガニーニ・コンクールのとき。すばらしい技術と、だがそのすごさを決して押し付けがましく感じさせることのないのびやかで明るい音に、多くの人が魅了され大きな拍手を送っていたのをよく覚えている。
当時まだ高校生だった正戸さんは、その後、パリ国立高等音楽院に留学し、その音に磨きをかけた。留学先にイタリアでなかったのは個人的にはちょっぴり残念だけれど、こうしてパリのソナタを聴いていると、なるほどこれが彼女らしい道だったのだろうと思う。こうしてブログを書きながら、さっそくCDを聴いて昨夜の余韻を楽しんでいる。
イタリアにも度々、演奏会などで訪れているらしい。
今後のますますのご活躍を、心より期待したい。
正戸里佳 ヴァイオリン・リサイタル
2018年5月17日
東京文化会館 小ホール
出演 正戸里佳(ヴァイオリン)、菅野潤(ピアノ)
プログラム
クロード・ドビュッシー
昼の夜
ヴァイオリン・ソナタ(I. Allegro vivo, II. Interméde: Fantasque et lèger, III. Finale: Très animé)
ダリウス・ミヨー
春 Op.18
モーリス・ラヴェル
フォーレの名による子守歌
ヴァイオリン・ソナタ(I. Allegretto, II. Blues: Moderato, III. Perpetuum mobile: Allegro)
リリ・ブーランジェ
ノクターン
コルテージュ
フランシス・プーランク
平和のためにお祈りください
ヴァイオリン・ソナタ(I. Allegro con fuoco, II. Intermezzo, III. Presto tragico)
18 mag 2018