イサム・ノグチと長谷川三郎 変わるものと変わらざるもの 展〜横浜美術館 |
アメリカで生まれ、日本人の父とアメリカ人の母を持ち、幼少時から小学校を日本で過ごしながら14歳でふたたびアメリカへ。戦時中には志願して二世収容所に入り、原爆に責任を感じていたというイサム・ノグチは、ニューヨークの大学で医学を学んでいたもののそこで出会った野口英世の助言もあり、彫刻を目指すことになる。
一方、山口に生まれ、青少年期を兵庫で過ごし、甲南高等学校在学中に小出楢重に油彩画を学んだ長谷川三郎は、東京帝国大学で美術史を学んだのちに欧州に遊学。帰国後、油彩による抽象画を描き始める。
2人の出会いは1950年。ノグチが日本を訪れ、多くの芸術家や建築家と出会い交流を持つ中で、とくに長谷川と意気投合し、一緒に京都など関西への旅に出る。
展示はまず、「出会い」以前の長谷川の作品から。油彩による抽象画も、「郷土誌」と名付けられたシリーズのゼラチン・シルバー・プリントの写真も、古臭いどころか今でもポップで新しく、とくに写真のほうは、何度も、少しずつ紙を貼り継いだ障子だの、波に洗われてすっかり元の形を失いつつある砂の城だの、いかにもSNS映えするスマホ写真のような、偶発を切り取ったような絵が並ぶ。
「出会い」後の長谷川は、油彩をやめ、和紙に墨、そして版、と伝統的な日本の手法に目覚める。藤沢・辻堂に暮らしていたために、小田原のかまぼこを食べる機会が多く、自宅にあったかまぼこ板を彫って、版というかスタンプのように使ったという嘘のようなほんとの、神奈川県民には嬉しいエピソードも。で、そんな作品たちがほんとに楽しくておもしろい。それにしてもかまぼこ木版、子どもはもちろん、大人にとってもちょっとしたワークショップや課題にもいいんじゃないだろうか?
もう1つ、ワークショップ向けなのが、拓刷。これはフロッタージュといったほうがわかる方が多いかもしれない、つまり、やや立体感のあるものの上に紙をのせ、鉛筆のようなもので上からこすってその模様をあぶりだすもので、ヴェネツィアで隔年で開催されるビエンナーレ国際美術展の日本館でも、2007年に岡部昌生さんがフロッタージュによる作品を展示した。あのときも、作家さんご本人によるワークショップが大人気だった。
長谷川はそうした新たな手法を用い、自らのテーマである抽象を実現していく。また、一時は北鎌倉にあった北大路魯山人の家に暮らしたノグチは、陶芸というある意味原始的な方法で試行錯誤を重ね、やがて、日本の建築や美術のほか、折り紙や書にヒントを得たようなブロンズや大理石彫刻へと昇華させる。
圧巻はだが、2人の作品を対峙させた第四章だろう。それぞれはっきりと、個性ある作品ながらなお、同じ作家の作品と言われても納得してしまいそうな、はじめからこの同じ空間のために作られたかのような作品たち。こうして一緒に見ることができるのはまさに、企画展の醍醐味といえる。そのわずか数年後の57年に、長谷川は新天地として求めたカリフォルニアで病に倒れ客死する。長谷川の無念は、真の友ノグチの心に残り続けたであろう。イサム・ノグチという知っているようでよく知らなかった作家と、長谷川三郎という日本でも忘れられていた作家との、すてきなコラボレーションだった。
イサム・ノグチと長谷川三郎
変わるものと変わらざるもの 展
2019年1月12日~3月24日
横浜美術館
https://yokohama.art.museum/special/2018/NoguchiHasegawa/
17 feb 2019