人と人のお話、「グリーンブック」と「ナポリの隣人」 |
うん、おもしろかった。
さすがアカデミー賞、多くの人が観て、おもしろかった、よかった、と思った映画というのがよくわかる。60年代のアメリカの、絵と音とエンターテインメントにあふれていて、なによりストーリーがおもしろい。それが実話に基づいたお話だというのが、驚きでもあり、納得でもある。黒人のピアニスト、ドクター・シャーリーと、南部のコンサートツアーのために、彼に雇われた運転手、イタリア系移民のトニー・リップ。最初はいやいや、でもお金のために仕事を請け負ったトニーだが、シャーリーの演奏に惚れる。一方で、トニーのお行儀の悪さや騒々しさに辟易とするシャーリーも、その、人としてのハートに気づき始める。
ああ、これがイタリア人と思われるのはきっと、ほとんどのイタリア人は嫌がるにちがいない。かつてハリウッド映画で、日本人といえば黒髪に黒ぶちの眼鏡、糸のような目に出っ歯でカメラを首から下げている・・・そんなふうに描かれていたのと同じようなものだから。違うのはただ、戦前から戦後も、多くのイタリア人がアメリカに出稼ぎに出て、実際にもっともっと、かの地の社会に食い込んでいたということだろう。
強いていえば、トニーが全然、イタリア系には見えない(だってヴィゴ・モーテンセンだし・笑)のと、イタリア系コミュニティの仲間たちの間でしゃべっているイタリア語が超アメリカ訛り(笑)なのがご愛嬌ということかな。
対して、「ナポリの隣人」には、一般に期待されるナポリらしさはほとんど出てこない。一人暮らしの老人ロレンツォは、実の娘、息子と関係をこじらせている一方、隣に住む、明るく人のよいミケーラとその家族と、ひょんなことから次第に、親しくなりはじめる。ロレンツォは、ナポリで生まれ育って、ここからでたことがないというが、ミケーレの一家は、仕事の都合で国内を転々とし、拠点を持たないというから、そこにもナポリらしさはない。むしろ、ロレンツォの事情も、一家の事情も、日本でもアメリカでもイタリアでも、どこにでもありそうな話だ。
アラビア語の法廷通訳として働くロレンツォの娘エレナ。一見、平和で仲のよいファミリーの中で、内にこもるミケーラの夫ファビオ。内と外、本音と建前と、それぞれの人のいくつもの層が触れ合い、ぶつかり、そして思わぬ事態によりそれが変調し、加速する。
イタリア語の原題は”La tenerezza”、優しさとか柔らかさといった意味だが、そこには具体的な触感、肉体的な感覚を伴う。このタイトルが実は、最後に効く。
楽しい、映画では決してない。だが、心に残る、手のひらにそっと包んでとっておきたい、そんな映画。
グリーンブック Greenbook
監督 ピーター・ファレリー
出演 ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ
2018年、米
https://gaga.ne.jp/greenbook/index.html
ナポリの隣人 La tenerezza
監督 ジャンニ・アメリオ
出演 レナート・カルペンティエーリ、ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、ミカエラ・ラマッツォッティ、エリオ・ジェルマーノ ほか
2017年、イタリア
http://www.zaziefilms.com/napoli/index.html
17 mar 2019