愛らしい姿に思わずニッコリ「画家が見たこども展」三菱一号館美術館 |
画面からはみ出さんばかりの丸々とした頰、パッチリと開いた青い目の視線は微妙にこちらから外れているものの、どっしりと構えた鼻、キュッと結んだ立派な唇とともにこちらの視線を捉えて離さない。あのゴッホが友人夫妻の娘を描いた「マルセル・ルーランの肖像」だ。
こどもを描いた絵、としておそらく最も有名なものの1つが、ベラスケスの「青いドレスの王女マルガリータ・テレサの肖像」(1659年、ウィーン美術史美術館所蔵)ではないだろうか。先月まで東京・上野の国立西洋美術館で展示されており、ポスターなどにも使われていたので記憶に新しい方も多いだろう。
実は、「こども」というのが少なくとも西洋世界においては長らく、絵画彫刻のテーマにはなり得なかった。例外は上記のような王侯貴族らの公式肖像画で、それは大人のそれと同様、こどもとはいえ大人同然の服装、大人のようにかっちりとかしこまったポーズで描かれており、女の子なら美しく優雅に、男の子なら凛々しく威厳のある姿でなくてはならなかった。
「こども」への視線が変わり、絵画や彫刻のテーマの1つとして「こども」が自然に登場するようになったのが1880年代のこと、ちょうどナビ派を名乗る画家のグループの誕生時期と重なる。パリの大通りを埋める人々、公園で散策を楽しむ人々を好んで描いた彼らの絵の中には、ごく自然に、当然のようにこどもたちの姿があった。彼らは決してピチッとかしこまった姿ではなく、遊んだり走ったり・・・大人に注意されたり呆れられたりしながら、そんな大人たちの間を自由に動き回る。パリという近代都市の形成とともに生まれた美術であり、テーマであったといえよう。
フェリックス・ヴァロットンの木版はほとんど、風刺の効いた漫画のよう。こどもたちはただ無邪気でかわいらしいだけでなく、社会の参加者であり、事件の目撃者のひとりでであり、時に残酷ですらある。
と同時に、家の中、家庭の中でのこどもたちにも目が向けられる。9人の子に恵まれたモーリス・ドニ、姪や甥を愛おしく描いたピエール・ボナールやエドゥアール・ヴュイヤール。冒頭のゴッホは、この友人の娘を繰り返しモデルにした。
もうひとつ、母と子といえばキリスト教図像の基本である伝統的な「聖母子像」。ルネサンスの時代から、画家たちは自らの妻や愛人とその子をモデルに描いたが、美しいマリアはともかく、幼子はあまりかわいくない・・・むしろこわいくらいと思ったことはないだろうか?ドニの「ノエルと母親」は、こどもが主役だ。こちらを向いた青い瞳が、こども自身、母親、背景と全て青で統一された空間の中心を占めている。同じドニの「青いズボンの子ども」の背景には、ボッティチェッリの「聖母子と幼い洗礼者ヨハネ」(ルーヴル所蔵)が描かれている。
南仏ル・カネのボナール美術館館長、ヴェロニク・セラノさんによる記念講演会でそんなようなお話を伺ってから展覧会を見た。ボナールが晩年を過ごしたというル・カネにも行って見たいなあ・・・。
画家が見たこども展
2020年2月15日~6月7日
三菱一号館美術館
18 feb 2020