2025年 冬、ルーヴル |

もう何年ぶりか思い出せないくらい、ほんとに久しぶりのパリ。仕事も忙しくないわけではなかったけれど、ちょうど期限が切れる代休が残っていたことに気がついて、慌ててお休みをいただいて、1月の終わりにいろいろと思いの募っていたパリに出かけた。
ローマから行くと、やはり大都会のパリ、おまけに言葉が通じない。初めての街ではないけれど、もともと無い土地勘は全く当てにならず、ともかくスリに気をつけて、ふだんすっかり緩み切っている気を引き締めて。それでも、まずはローマからの機内アナウンスのフランス語、到着した空港の色合い、複雑でカラフルな(東京ほどではないけれど)地下鉄の路線図、車内の人々・・・そして、地下鉄の駅から階段を上がって街に出て・・・と、その度に気分が高まってドキドキした。
最近の旅の基本は、「無理をしない」。それでも初めて行くところや、そうでなくてもついつい欲張ってしまいがちなのだけど、パリは、どんなに頑張ったって、たった数日で行きたいところに全部行けるはずもない。今回は、雨の日は半日でも1日でも、ルーヴルで過ごせばいい、と思っていた。
果たしてその雨の金曜日。だいたい考えることは皆同じなのだろう、イタリアと同様にローシーズンで、街中は明らかに普段より断然観光客が少ないのだろうと思えたが、ルーヴル美術館の入口になっているガラスのピラミッドに近づくと、予約時間別に大勢の人がとぐろを巻いていた。

まあ、多少ここで並んでいても、中は広いし、このくらいならどうってことないだろう。・・・そして、とりあえず向かったイタリア絵画のギャラリーは、これも予想はしていたとはいえ、思った以上に混雑していた。イタリア人のグループが多い(さらに声が大きい)のも想定通り。
もちろんここにはイタリア人に限らず、たくさんの観光客がいて、さまざまな言語が聞こえる。日本の方もちらほら。自分もその1人。皆、わあわあと、感嘆の声を漏らしたり、写真を撮ったり。そして・・・言うまでもなく、この大半・・・いや、おそらく98%くらいの人の目的はやはり「モナリザ」なのだろう。ギャラリーをしばらく進んで、右手に開かれたモナリザのある部屋に皆どんどん吸い込まれていく。
もちろん、その部屋は一段と混雑していることはわかっていた。でも、せっかくだし、チラリとでも見ておこうと思い部屋に進んで、その惨状とも言うべき姿に衝撃を受けた。
体育館並みに広く天井も高い部屋、中央の奥の方におわしめす彼女は、その前に押し寄せる人いきれのためか、霞んで見える。
あああ・・・でも何よりも、心底がっかりしたのは、その部屋の他の壁一面には、ティツィアーノやティントレット、バッサーノやロットなど、ヴェネツィア絵画の黄金時代、16世紀ヴェネツィア派の作品たちが、ほとんど見向きもせずにかかっていたことだった。ルーヴル美術館には何度か来て、当然このモナリザも何度も見ているはずなのだが、前回来たときも既にこの配置だったのかは思い出せない。


ヴェロネーゼの「カナの婚礼」は、モナリザと対峙する壁一面を埋めており、縦6.77m、横9.94mと巨大な作品なのに、モナリザに向かう行列のため、距離を置いて正面から鑑賞することができない。なぜか、モナリザへ向かってハの字型に仕切りが設けられ、かつご丁寧に1.6mほどの高さの黒幕で覆われているため、左右の壁にある作品も、うまく正面から観ることができない。さらには、モナリザの「裏」の壁に展示されている作品などは、多くの人に気付かれずにいるのではないか・・・。仮にもヴェネツィアで美術史を学んだ端くれとして、怒りを通り越して、あまりにもひどい仕打ちに思え、涙が出た。

だいたい、イタリア絵画だけで有り余るほどの所蔵品がある中で、なぜ、わざわざ(本来であれば)華やかりしヴェネツィア派の大型作品の中に、レオナルド・ダ・ヴィンチの比較的小型な「モナリザ」一点を置くのだろう?同じレオナルドの作品や、ロンバルディア派、弟子らの作品と並べるべきではないのだろうか???
いや、こんなことなら、モナリザは専用室に一点のみとして、どうしてもそれを観たい人はそこに並ぶ、としたらいいのに。さらには、本物は(それだけでも)撮影一切厳禁にして、その代わり撮影自由なコーナーを作ってレプリカを置けばもうそれでいいのでは?と思ったり。
ラファエロもカラヴァッジョも、他の美術館や展覧会なら人が押し寄せるはずの作品の前も、ここではガラガラで見向きもされていなかった。

私だって、単なる一観光客だし、有名な作品はやっぱり観ておきたいし、写真だってせっかくなら撮りたい。あそこもここも、旅行にも行きたい。いったい、何がどうあるべきなのか・・・などと考えながらルーヴルを後にして、宿に戻ってから、ちょうどその日だか前日だかに、老朽化などの対応のため、ルーヴル美術館が改装工事などを予定していると発表したと知った。
世界の美の殿堂が、多くの人を満足させる画期的な解決策を示してくれることを、心より楽しみにしている。
8 feb 2025
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