
8月、9月、そして10月と、3カ月続けてヴェネツィアを訪れ、ビエンナーレやその周辺の展示を見た。
今年のビエンナーレの国別展示の中で、誰もをあっと言わせたのは、女性刑務所内を展示会場とした、バチカン·パビリオンだろう。
当然、見学しようにも誰もが自由に出入りできる場所ではない。予約制、それも人数も限られるからなかなか行きたくても行くことができない。
ようやく取れた予約の日時に、大事をとってかなり早めにいって入口で待っていると、予約時間少し前になって、受付が始まった。
そのは、ドイツ人のグループ、アメリカ人など外国人が多数派でイタリア人少々。ところがその半分くらいが、受付ではじかれることになった。理由は例えば、予約時の氏名記載の不備。ミドルネームやダブルネームというのか、例えばイタリア人の場合、名前がマリア·ローザ(プラス名字)という人がいるのだが、通称はマリアだけで通っており本人も「マリア」と自覚しているから、それだけを記載していて、身分証明書と異なると拒否されるケース。または、ドイツ人のグループはなぜか、名字を記載せずに、マリア、とか、ステファン、とか名前だけを入力していた人が多発し、全て拒否。または家族なのか、名字は同じだけど別の名前で登録している人。さらには誕生日の記載ミス。
前から予約して、わざわざ来ているのだから、皆、もちろんいちいち反論し抵抗する。受付、といっても実際は刑務所警察官だから、ダメなものはダメの一点張り。そもそも彼女は英語もほとんどできないからコミュニケーションにより時間がかかる。
早々に受付をクリアし、ぼーっとその様子を眺めていた私も実は、1度めは同様のミスで拒否されて、起死回生2度めチャレンジだった。刑務所に入ろうというのだから、チェックが厳しいのは当然のこと。ただ、皆が口々の訴えるように、そう、問題は、予約時のサイトには「身分証明書」と一字一句違わずに入力するよう、とは記載されていなかったし、なんなら名字を入力しなくても登録できてしまうところにある。
そうこうしている間にも、自分は関係者だが予約はないけど入れるか?とか、自分は責任者に話をつけている等々、さまざまな人が現れ、どんどん時間が遅れていく。ようやくスタートできるかと思いきや、パスできたドイツ人グループが、空港行きの水上タクシーを予約しているから、時間変更しないと、といいただして、その電話交渉を待って···。見学を開始できた時には、予定時刻を30分以上回っていた。
前置きばかりが長くなったが、これはほんとうに、行ってよかった。中には携帯電話含む荷物の一切合切を持ち込めず、もちろん撮影も禁止だから、写真はない。
「パビリオン」と言っても、自由に見て回れる訳ではない。先程の警察官が、まるでマンガのような大きな鍵の束を持ってひとつひとつ扉を開け、私たちを中へと促す。敷地内に入ったところから、中の人、つまり囚役者である女性3名がガイド役となって説明をしてくれる。見たところ、60代、50代、40代だろうか。もう少しずつ上かもしれない。1人は外国人のよう。そして、ひとたび案内が始まると、そこは、他のさまざまなビエンナーレの展示会場と変わらないような、建物と空間を活かした展示があった。
もちろん、作品にはひとつひとつ意味があった。この塀の中にいる女性たちの詩を陶版に焼き付けたもの。彼女たちから集めた「子供の写真」、それは自らが幼少の頃でも、自分たちの子供や孫の写真でもよく、そうした写真からそれぞれ、絵画に起こしたもの。女性をテーマにしたグラフィックやインスタレーション。敷地内の各所に置かれた作品を見て回るために、所内や彼女らの日常を案内される。野菜や薬用化粧品用のハーブなどを育てている畑。縫製やヴェネツィア市内のホテルから受注するリネン類のクリーニング室、面会室。元修道院だというその刑務所は、内側にヴェネツィアの街の中のような広場もあって、そこには「夜、私たちはあなたたちと共にいる」と書いたネオン作品。イタリアは各地で刑務所が定員を大幅に超えて環境が劣悪化し、しばしば暴動なども起きていると聞くなかで、もしここは、少しでもまともな環境を保っているのなら好ましい、と思った。
案内役の彼女らは、通常の作業服と思わしき格好の上に、白と濃紺で半身ずつになった、丈の長い制服を着ていた。それはこの仕事、ビエンナーレの案内のために作られたものなのだそう。白は教皇の白、紺は警察官の制服の紺だとか。彼女らは誇らしげに、全部で1時間弱の案内を務め、最後に、この機会を与えられたこと、そしてその日、私たちが訪問したことに厚く感謝の気持ちを述べた。教皇フランシスコはしばしば、ローマ市内や訪問先で刑務所を訪問し、囚役者を見舞うことで知られるが、犯罪者であっても決して忘れない、このビエンナーレは、そうした教皇ならではの選択でありアイディアが、しっかりと実を結んでいることを実感した。
ここで展示されていた作品(の一部?)は、ビエンナーレ終了後に他の国際展などに出展されるらしい。塀の中にいる自分たちの関わった作品が世界に羽ばたいていく、それはとても誇らしい、と強調していた。
タイトルは、「With my eyes(自分の目で)」。アートとは何か、ビエンナーレをめぐる度にいつも考えさられるテーマだけれど、ここで、その答えのひとつを得た気がした。
BIENNALE ARTE 2024
60. ESPOSIZIONE INTERNAZIONALE D’ARTE
VENEZIA, 20.04 - 24.11 2024
Padiglione della SANTA SEDE
Con i miei occhi
https://www.labiennale.org/it/arte/2024/santa-sede
2 nov 2024
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